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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)3162号 判決

昭和六〇年(ワ)第三一六二号事件(以下「甲事件」という。)原告

昭和六一年(ワ)第九三〇号事件(以下「乙事件」という。)被参加被告

昭和六一年(ワ)第一六〇一五号(以下「丙事件」という。)反訴原告 (以下、単に「原告」という。) 太田寿之

右訴訟代理人弁護士 宮本智

同 小林七郎

甲事件被告(以下、単に「被告」という。) 株式会社日本長期信用銀行

右代表者代表取締役 杉浦敏介

右訴訟代理人弁護士 畠山保雄

同 原田栄司

同 矢島匡

乙事件参加原告、丙事件反訴被告(以下、単に「参加原告」という。) 井川敏明

右訴訟代理人弁護士 村上重俊

主文

一、甲事件(昭和六〇年(ワ)第三一六二号)についての原告の主位的請求を棄却する。

二、甲事件についての原告の予備的請求に係る訴えを却下する。

三、乙事件(昭和六一年(ワ)第九三〇号)についての参加人の請求を棄却する。

四、丙事件(昭和六一年(ワ)第一六〇一五号)についての原告の請求に基づき、原者と参加人との間において、原告が別紙供託金目録記載の各供託金についていずれも還付請求権を有することを確認する。

五、訴訟費用中、甲事件について生じた費用は全部原告の負担とし、乙事件及び丙事件について生じた費用は全部参加原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、甲事件

1. 原告

(一)  (主位的請求)

被告は原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五六年六月二八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  (予備的請求)

原告と被告との間において、原告が別紙供託金目録記載の各供託金についていずれも還付請求権を有することを確認する。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  第一項につき仮執行の宣言。

2. 被告

(一)  原告の主位的請求を棄却する。

(二)  主文第二項と同旨。

(予備的に)原告の予備的請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は原告の負担とする。

二、乙事件

1. 参加原告

(一)  原告と参加原告との間において、別紙債券目録記載の債券三通に係る償還金請求債権金三〇〇万円及びこれに対する昭和五六年六月二八日から完済まで年六分の割合による金員債権を参加原告が有することを確認する。

(二)  参加費用は原告の負担とする。

2. 原告

(一)  参加原告の請求を棄却する。

(二)  参加費用は参加原告の負担とする。

三、丙事件

1. 原告

(一)  主文第四項と同旨。

(二)  反訴費用は参加原告の負担とする。

2. 参加原告

(一)  原告の反訴請求を棄却する。

(二)  反訴費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、甲事件

1. 主位的請求

(一)  請求原因

(1) 被告は、別紙債券目録記載の債券三通(以下「本件債券」という。)を売出し発行した。

(2) 原告は被告に対し、昭和五六年六月二七日(償還日)に本件債券を呈示して、その券面に記載の金額の金銭(以下「償還金」という。)の償還を求めたが、被告はその償還を拒絶した。

(3) 原告は本件債券を所持している。

(4) よって、原告は被告に対し、主位的請求に係る請求の趣旨(第一の一1(一))として記載の金員の支払いを求める。

(二)  請求原因に対する認否

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実は、日付の点を除き、その余は認める。

原告が被告に償還を求めたのは、昭和五六年六月二九日である。

(3) 同(3)の事実は知らない。

(三)  抗弁(商法五一八条による供託)

(1) 被告は、本件債券をその売出し期間(昭和五五年五月二八日から同年六月二七日まで)中に、参加原告に対して売出し発行し、償還期日に本件債券と引換えにその償還金を支払う債務を負担した。

(2) 参加原告は、昭和五六年三月一〇日、東京簡易裁判所に対し、本件債券が盗取されたとして公示催告の申立てをした。

(3) 参加原告は、昭和五六年六月二五日、被告に対し、商法五一八条に基づき、本件債券の目的物たる償還金の供託を請求した。

(4) そこで、被告は、昭和五六年六月二七日、右償還金を、別紙供託金目録記載の各供託金(以下「本件供託金」という。)として東京法務局に供託した。

(5) 商法五一八条による供託の効果は絶対的効力があるから、右供託により被告の債務は消滅した。

(四)  抗弁に対する認否

(1) 抗弁(1)の事実のうち、本件債券を参加原告に対して発行したことは不知、その余は認める。

(2) 同(2)の事実のうち、盗取の点は不知、その余は認める。

(3) 同(3)及び(4)の事実はいずれも認める。

(4) 同(5)については争う。

(五)  再抗弁(権利届出による公示催告手続の完結)

原告は、公示催告期間中の昭和五六年七月一日、東京簡易裁判所に対し、本件債券を呈示して権利を争う旨届出をし、これにより、公示催告手続は除権判決に至ることなく完結した。

商法五一八条の供託による弁済の効果が絶対的に生ずるということは、公示催告の手続中においては妥当するとしても、本件の如く証券の所持人が権利届出をし、これによって公示催告手続が除権判決に至らずに完結した場合は、別である。この場合には、公示催告申立人はもはや債務者に供託させておくことはできなくなり、債務者は供託金を自由に取戻しをすることができる反面、債務者は、供託を理由に証券の所持人に対し免責を主張することはできなくなるというべきである。けだし、商法五一八条の供託は、公示催告手続の存在を前提とするものであるから、公示催告手続が完結する以上、同条による供託はその前提を欠き、不適法とならざるを得ないからである。

(五)  再抗弁についての認否

商法五一八条の供託の効果が相対的であるとする原告の主張を争う。

2. 予備的請求

(一)  請求原因

仮に被告の供託に絶対的効力があり、主位的請求が認められないとしても、

(1) 被告は本件債券を売出し発行した。

(2) 原告は本件債券を所持している。

(3) 被告は、本件債券について、商法五一八条に基づき、本件供託金を供託した。

(4) 被告は、原告が本件債券上の権利及び本件供託金に対する還付請求権を有することを争っている。

(5) よって、原告は被告との間において、原告が本件供託金についていずれも還付請求権を有することの確認を求める。

(二)  被告の本案前の主張

被告は、すでに本件債券の償還金を本件供託金として供託し、本件供託金について実体上の請求権を有しないから、原告が予備的に確認を求める本件供託金の還付請求権の帰属については、法的利害関係を有しない。右還付請求権の帰属については、原告及び参加原告間に争いがあるだけであり、原告は、参加原告に対して右還付請求権が原告に帰属することの確認を求めているのであるから、この請求によって原告の権利関係は確認できる。したがって、原告の被告に対する本件予備的請求に係る訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものであるから、却下されるべきである。

(三)  請求原因に対する認否(予備的答弁)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実は知らない。

(3) 同(3)の事実は認める。

(4) 同(4)の事実は否認する。

二、乙事件

1. 請求原因

(一)  原告は、本件債券を有しており、被告に対し本件甲事件を提起している。

(二)  原告が所持している本件債券は、参加原告が被告渋谷支店で購入し所持していたものを、昭和五六年二月一二日、参加原告の住居のあるマンション駐車場内に駐車中の参加原告所有の乗用車内のグローブボックスから他の四通とともに盗まれたものである。

(三)  (原告の悪意及び重過失)

(1) 原告は、実務経験豊かな金融業者であり、いわゆるバッタ屋から、正常に入手されたとは思えない状況にあることを知りながら、原告の住居地では全く流通していない本件債券を譲り受けた。

(2) 原告は、本件債券を譲り受けるに当たり、発行銀行である被告に対しても譲渡人に対しても、何等の調査もしなかった。

(3) 右のとおりであるから、原告が本件債券を譲り受けるに当たり、譲渡人が無権利であることにつき原告には悪意があり、仮に原告が善意であったとしても、原告には、これにつき重大な過失がある。

(四)  よって、参加原告は原告に対し、甲事件で原告が主張する請求債券は参加原告に帰属し、参加原告が右債券の額面金額の金員について、当該債権を有するものであることの確認を求める。

2. 請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は知らない。

(三)  同(三)の事実は否認する。

原告は、本件債券を善意取得しているものである。

しかも、原告は、本件債券を買い受ける前に、自己の取引銀行であるみちのく銀行三沢支店で、同支店の大村茂次長を通じ、本件債券の取扱店である野村証券青森支店に照会したが、その際、同店から事故債券である旨の通知を受けなかった。したがって、原告には重過失もない。

三、丙事件

1. 反訴請求原因

(一)  被告は、本件債券を売出し発行した。

(二)  原告は、右本件債券を所持している。

(三)  被告は、本件債券の償還金につき、商法五一八条に基づき、本件供託金を供託した。

(四)  参加原告は、原告が本件債券上の権利及び本件供託金に対する還付請求権を有することを争っている。

(五)  よって、原告は参加原告との間で、原告が本件供託金についていずれも還付請求権を有することの確認を求める。

2. 反訴請求原因に対する認否

反訴請求原因事実はすべて認める。

3. 抗弁(原告の悪意及び重過失)

乙事件の請求原因(三)のとおり。

4. 抗弁に対する認否

乙事件の請求原因に対する認否(三)のとおり。

第三、証拠〈省略〉

理由

第一、甲事件の主位的請求について

一、請求原因

1. 被告が本件債券を売出し発行したこと、原告が被告に本件債券を呈示して償還金の支払いを求め、被告がその支払いを拒絶したことはいずれも当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、本件債券は、昭和五六年六月二九日に、十和田信用金庫を通じて被告仙台支店に呈示され、同日その支払いを拒絶されたものであることが認められる。他に、これに反する証拠はない。

3. また、〈証拠〉によれば、本件債券は原告がこれを所持し、かつ、原告が前記のとおり本件債券の呈示をしているものであることが認められる。他に、これを左右する証拠はない。

二、抗弁(商法五一八条による供託)

1. 被告が、昭和五五年五月二八日から同年六月二七日までの売出し期間中に本件債券を売出し発行したこと、これにより被告がその償還期日である昭和五六年六月二七日以降本件債券と引換えに償還金の支払債務を負担したことは、いずれも当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、被告は参加原告に対して本件債券を売出し発行したものであることが認められる。他にこれに反する証拠はない。

2. また、参加原告が、昭和五六年三月一〇日、東京簡易裁判所に対し公示催告の申立てをしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、参加原告は本件債券を盗取されたものとして右公示催告の申立てをしているものであることが認められる。他に、これを左右する証拠はない。

3. 更に、参加原告が、昭和五六年六月二五日、被告に対し本件債券の目的物たる償還金の供託を請求し、これにより被告が、同年六月二七日、東京法務局に対し、商法五一八条に基づき本件供託金を供託したことは、当事者間に争いがなく、その後(昭和五六年六月二九日)に原告が本件債券の呈示をしているものであることは前記認定(一の2)のとおりである。

4. 以上によれば、被告は、本券債券の所持人が不明の間に、本件債券を盗取されたとする参加原告の請求により、本件供託金の供託をしているものであるから、右供託は商法五一八条に基づき適法になされたものであるということができる。

三、再抗弁(権利届出による公示催告手続の完結)

1. 原告が、公示催告期間中の昭和五六年七月一日、東京簡易裁判所に対し、本件債券を呈示して権利を争う旨届出をし、これにより除権判決に至ることなく公示催告手続が完結したことは、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

2. ところで、原告は、権利届出により除権判決がなされることなく公示催告手続が完結した場合には、商法五一八条に基づく供託がなされたとしても債務消滅の効果は生じない旨主張し、これを前提として本件再抗弁を主張しているものであるが、原告主張のように考えると、債務者は、一旦適法に供託して債務の支払いをしたことになるにもかかわらず、状況により改めて供託をしなければならなくなる場合があり得るほか、本来証券の所持人とその実体上の権利者との間において争われるべき証券上の権利の帰属に関する紛争に、債務者が証券所持人の相手方当事者として引き込まれることにもなりかねず(本件は、かかる場合の一事例である。)、債務者にとって不安定かつ不利益を余儀なくされる事態が生じ得る。また、民法四九四条後段に基づく供託が債務者の選択的意思によるものであり、かつ、任意の取り戻しができるものであるにもかかわらず、債務免脱の効果が認められることとの対比においても、供託が義務付けられ、かつ、任意の取戻しができない意味において拘束的である商法五一八条に基づく供託には、それが適法に行われたものである限り、同様の効果が認められてしかるべきである。

したがって、商法五一八条に基づき適法な供託がなされた場合には、当該供託は絶対的効力を生じるものと解するのが相当であるところ、本件債券の償還金の供託が適法になされていることは前記のとおりであるから、原告が再抗弁として主張するところは、その前提を欠き、主張自体失当というべきである。

四、以上のとおりであって、結局、商法五一八条に基づく供託により被告の償還金支払債務は消滅したというべきであるから、前記被告の抗弁は理由があり、原告の再抗弁が失当である以上、原告の請求は理由がない。

第二、甲事件の予備的請求について

(被告の本案前の申立てについて)

被告が本件債券の償還金を適法に供託しているものであることは、前記第一の二において認定したとおりである。そうであれば、被告は右供託により右償還金債務についてはその支払義務を免れているというべきであるから、以後は本件債券の所持人(原告)と、その実体上の権利を主張する者(参加原告)との間においてその権利の帰属が確定されれば足り、原告には、被告との間で本件供託金の還付請求権の帰属を確定する利益はないというべきである。

したがって、被告の本案前の申立ては理由があり、原告の予備的請求に係る訴えは、本案の判断をするまでもなく、不適法として却下を免れない。

第三、乙事件について

一、本件訴えの性質

本件は、当初、参加原告から原告及び被告をそれぞれ被参加人とし、独立当事者参加の申立てとして提起されたが、参加原告は、その後、原告及び被告の同意のもとに、被告に対する訴えを取下げているものであることが本件記録上明らかである。したがって、右取下に伴い、本件は、参加原告から原告に対し通常の訴えの提起がなされたものと解して以下これを判断する。

二、請求原因

1. 原告が、本件債券を所持し、被告に対して本件甲事件を提起しているものであること(請求原因(一)の事実)は、当事者間に争いがない。

2. 〈証拠〉によれば、参加原告は、昭和五六年二月一四日、警視庁渋谷警察署に対し、本件債券を含む被告発行の長期割引信用債券七枚(額面各一〇〇万円)を、同年二月一二日午前〇時四五分頃から同日午前九時頃までの間に、東京都渋谷区恵比寿西一丁目三五番一一号代官山タワーマンション一階駐車場内に駐車中の参加原告所有の乗用車(緑色ベンツ品川三三と五六四三)内のグローブボックスから、何者かによって盗まれた旨届出をしたことが認められる。また、〈証拠〉によれば、参加原告は、昭和五六年二月一二日午前九時頃、被告渋谷支店長代理であった同証人に対し、本件債券を含む右債券が盗難に遭った旨電話をしていることが認められる。したがって、これらの事実に弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因(二)の事実(参加原告がその所有の本件債券を盗取された旨の事実)があったことを推認することができるところ、他に、この推認を左右するに足りる証拠はない。

3. そこで、以下、原告の悪意及び重過失について判断する。

(一)  〈証拠〉によれば、以下の各事実が認められ、他に、これを覆すに足る証拠はない。

(1) 原告は、青森県三沢市で、貸店舗業を営むかたわら、昭和五一年から個人で貸金業を営み、手形貸付等を行ってきた。

(2) 本件債券は、昭和五六年三月一七日、かねて金融の仲介をし、原告の許にも出入りしていた北村昭信(以下「北村」という。)がこれを原告の許に持参した。

(3) その際、北村は原告に、本件債券は駒沢明善(以下「駒沢」という。)が購入したものであるが、同人から、要急の金が入用であるとして換金を頼まれたため、原告に割引を依頼すべくこれを持参した旨原告に説明した。

(4) 原告は、右依頼に応じて、同日、本件債券(額面金額各一〇〇万円、三通で総額三〇〇万円)を同年六月三〇日までの月五分の割引料を控除した金二四七万五〇〇〇円で取得し、右金額の金員を北村に交付した。

(5) 当時、駒沢は、三沢のメインストリートで、「はくらんかい」と称して贈答品、雑貨等を扱う店を経営しており、かねて原告とも面識があった。

(6) 原告は、遅くとも昭和五六年一二月一一日の時点では、駒沢が、駒商事という、いわゆるバッタ屋(換金のため安値で処分する品物を扱う業者)であることを知っていた。

(7) 原告は、北村が本件債券を持参するまでは、手形、小切手、株券だけを取扱い、債券等その他の有価証券を取扱ったことはなかった。

(8) 北村は、かねて、折々原告に手形の割引を依頼してきており、原告は北村を信用していた。

(二)  以上の認定事実によるも、原告には未だ本件債券の取得につき悪意があったことまでは認め難いというべきところ、他に、原告の右悪意を認めるに足る証拠はない。

(三)  一方、以上の認定事実に基づいて考えると、金融業者である原告としては、たとい北村を信用しており、また、駒沢と面識があったにしても、同人はいわゆるバッタ屋であり、仮に原告がこれを当時は知らなかったとしても、かかる駒沢から、初めて、しかも、額面総額三〇〇万円もの本件債券を割引くものである以上、右割引をするに当っては、本件債券が事故債券ではないか否かについて、自らこれを確認するために、相応の調査をすべき注意義務があったというべきである。

(四)  しかし、〈証拠〉によれば、次の各事実が認められ、他に、これを覆すに足る証拠はない。

(1) 原告は、北村から本件債券を受け取った昭和五六年三月一七日午前、本件債券が本物であるかどうかを確認するため、自ら本件債券を持参して自己の取引銀行であるみちのく銀行三沢支店に赴き、同店の大村茂次長(以下「大村」という。)にその調査を依頼した。

(2) 大村は、原告の要請に応じて野村証券青森支店に電話をかけ、本件債券の名称、償還日、番号を告げてこれを特定し、その債券が確かに流通しているか否か、また、期日に取り立てられるかどうかを照会したが、右支店の女子職員は、いずれもこれにつき肯定の返答をした。

(3) 原告は、右確認をした後、同日更に、同様自己の取引銀行である青森銀行三沢支店に赴き、支店長代理である木村一己(以下「木村」という。)に対し、同様に本件債券が本物であるかどうか調査を依頼したところ、木村も野村証券青森支店に電話をかけて照会し、間違いない旨の返答を受けた。

(4) 被告は、かねて、債券事故が発生した場合には、証券会社等債券取扱機関の本社宛に事故債通知を発送する取り扱いをしており、本件債券を含む前記七通の債券については、昭和五六年二月一二日付け書面をもって被告証券事務部から元利金支払場所に宛てて、事故発生の旨を通知するとともに、相手方の各取扱店へもこの旨連絡するよう依頼している。

(五)  右に認定した事実によれば、原告は、本件債券につき、その真否については調査しているが、特にそれが事故債券であるかどうかについてまでは確認をしていない。しかし、原告は、二度にわたり調査依頼をしているもので、右確認はいずれも銀行を通じてこれを行っているものであること、しかも、右確認の過程では、原告が特に依頼をしなくても、本件債券が事故債券であることが確認される可能性は十分にあったとみられること、右の調査依頼以上に、原告において発行銀行である被告ないしその支店に直接これを確かめ、また、譲渡人についても更に調査を尽くすべきこと等を要求することは、本件債券が流通性ある証券であることに鑑み、過大を強いるものといわなければならないこと等を勘案すると、本件においては、原告が行った前記程度の調査により、原告としてなすべき可能な調査を一応尽したとみるのが相当である。他に、以上の認定判断を動かす証拠はない。

したがって、原告に本件債券の取得につき重過失がある旨の参加原告の主張も、これを認めることができない。

4. 以上のとおりであって、原告には本件債券の取得につき悪意及び重過失があるとは認められず、原告はその主張のとおり善意取得により本件債券の実体上の権利を取得しているものといわなければならないから、参加原告には本件債券の償還金債権についての実体上の権利があるとはいえない。したがって、参加原告がこれを有することの確認を求めるその請求は理由がない。

第四、丙事件について

一、反訴請求原因

反訴請求原因事実は、全部当事者間に争いがない。

二、抗弁(原告の悪意及び重過失)

原告に悪意及び重過失があるとはいえず、本件債券は原告がこれを善意取得しているものと認むべきことは、前記認定(第三の二3)のとおりである。したがって、参加原告の抗弁は理由がない。

三、以上によれば、原告は、本件供託金についていずれもその還付請求権を有するものということができるから、この旨の確認を求める原告の請求は理由がある。

第五、結論

よって、甲事件についての原告の主位的請求を理由なしとして棄却した上、甲事件についての原告の予備的請求に係る訴えを不適法として却下し、また、乙事件についての参加原告の請求を理由なしとして棄却し、丙事件についての原告の請求は理由があるから相当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田博)

〈以下省略〉

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